「ベートーベン捏造:名プロデューサーは嘘をつく」
生徒さんのお母さんに「あの映画は本当なのですか?」と聞かれて、そのバカリズム脚本の映画も見てないし、原作も読んでなかったので、どんな内容を聞かれているかわからず、原作がAudibleにあったので、早速読んでみました。
なるほど、一時期ベートーベンの秘書だったシンドラーが、会話帳にあとから書き足したという事件を元に、シンドラーを主人公に、その経緯を推察し、まさに、見てきたようなことを書いている本です。それも現代用語というか、若者言葉を使い、まさに現代に通じる話として。
シンドラーはベートーヴェンの自伝も手がけていて、そこにもどうやら自分のベートーベンはかくあって欲しいという理想像と、ベートーベンの死後、自らあちこちでそれらしくベートーベンの曲に関し語ったことの整合性を図るための作り話が、散見されるらしい。伝記に関しても、シンドラーは出鱈目が多く、他の伝記作家の方々とすったもんだしたようです。
この本、なんでも作者の音大の卒業論文が元になっているそうで、それを推理小説風に書き直したものらしい。専門家や音楽愛好家の間では有名な話で、私も聞いたことはありました。でも、詳しくは初めて知りました。
あの有名な「運命はかく扉をたたく」とベートーベンが言ったと言われている第五番の交響曲のモチーフも、シンドラーの捏造かも、というのだから、もう、何が本当かわからない。弟子のツェルニーによるとキアオジという鳥の鳴き声だそうだし。
インクの分析や、新しい資料が見つかることなどで、どんな作曲家も、後年新しい事実がわかってくるものではあります。
ただ、驚くのは、会話帳などの捏造が分かったのが、1977年だそうだけれど、その後もずっと、運命は運命のままだし、ベートーベンはシンドラーが理想とした「楽聖」として描かれることが多い。
そのようにプロデュースしておくのが、八方よろしいということなのでしょうね。
そういえば、以前ドイツに行った折、ボンのベートーベンハウスを訪ね、会話帳を見ました。シンドラーの書き込みもあったはず。確か絵葉書も買ってきた。とてもリアルで印象に残っています。ベートーベン自身は耳は悪くとも話せたので、書いているのはベートーベンと会話をしている相手。会話の相手のみが一方的に書く側なのも面白い。そもそも会話にはなっていないから、色々創作を刺激するのでしょうね。


