21th 8月
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最後のエッセイ
ピアニスト中村紘子さんが、亡くなる一カ月前まで書かれていていた最後のエッセイ集を読みました。
相変わらずの冴えた筆で、時に辛辣に音楽界のみならず、その周辺の人や物事についてお書きになっていますが、ほとんどが、ご自分にまつわる回想です。
覚悟されていたのか、小さい時からのご自分の事、周りの人のこと、思い出しては細かく書かれています。
また、よく出て来るフレーズに「片付けをしていたら」とあるのもその現れなのでしょう。そこで出てきたものの記憶をたどったり、はたまた今に戻って考察したりと、縦横無尽に話が広がります。
それにしても何十年も前のことを固有名詞から人の名前から、良く記憶してらっしゃるのに驚かされます。
最後の方に筆を置く理由として、書いていると親指が痛くピアノに障るといけないので、とあり、まだまだお弾きになるおつもりだったのか、それを理由にご自分でエッセイの幕を閉じたのか…。
日本でも稀有な、知性と見識と世界的人脈と経験とそれらを表すすべをご存知の素晴らしい方を無くしたのだと、一つの時代が終わったのだと思わせられました。
どなたかが、中村紘子さんには文部科学大臣になってもらいたかったと言っていましたが、成る程、誰に対してでも遠慮なく、グローバルな視野で日本の文化の未来のために、あの優しい口調で手厳しい発言をなさる所を見てみたかった。